疥癬パニックからの脱出

受診に当たって医師に伝えたいこと

他の皮膚疾患はあるのか? 「従前から持病として皮膚疾患があったかどうか」も重要である。たとえばアトピー体質の人が疥癬にかかると、アトピーが悪化して重症の疥癬に見えたり、ダニの死滅後も皮疹が長めに残ったりすることがある。そのような場合、もとも…

疥癬を疑って受診する際に医師に伝えたいこと

周りの人はどうか? 疥癬は感染症だから、「周囲の人(入所者だけでなく職員も)に同様の発疹が出ているかどうか?」が診断に際して重要である。たとえば「1ヶ月ほど前から施設内の他の入所者にも皮疹が出てきた」という話は、疥癬の診断に際して、重要な疫…

疥癬を疑って受診する場合に医師に伝えるべきこと

高齢者施設の職員である読者のみなさんが、疥癬について医師に相談する状況を考えると、多くの場合は入所者の方に皮疹が出て、疥癬を疑った場合だと思う。前回は疥癬について医師に相談する際に、「知っておくと役に立つかも?」という医者サイドの事情をお…

医師とのつきあい方 その5

当ブログで以前に述べたように、日本では疥癬の治療薬の多くが保険適応外である。そのため、薬に関する情報も不足している。makikuniもはじめて疥癬に取り組んだ際に情報が少なくて難儀した。受診する側の立場としては疥癬の疑いがあったら、なるべく早く効…

医師とのつきあい方 その4

次に知っておいて欲しいのは、「疥癬を診たり治療したりしたことのない医師が多い」ということだ。これは疥癬の流行状況に関係している。疥癬は数十年単位で流行の波がある病気であり、前回の流行は終戦直後のごく短期間に性感染症として爆発的に広がった。…

医師とつきあうコツ その3

今回から本題に入る(やっとかよ!)。言うまでもないことだが。疥癬は病気の一種だから、対策のためには医者の協力が不可欠である。あなたにとっても医者にとっても、時間が限られているのはお互い様である。その限られた時間で最大限の効果を引き出すため…

医師とつきあうコツ

makikuniは疥癬問題に関わる中で、病院・保健所・老人ホームなどいろいろなところに伺って疥癬対策の相談に乗ってきた。そのなかで聞いた愚痴の多くは医師の対応に関するものであった。医師の対応に対する不満は「疥癬だと思うのに、患者さんをじっくり見ず…

疥癬対策で医師とつきあうコツ

シルバー新報に掲載した「疥癬パニックからの脱出」は、ひょんなことから始まった連載だった。もともとは同紙の編集者Yさんが「アメリカで老年学を学んできたという、変わった医者がいるらしい」とmakikuniに取材しに来てくださったのがきっかけである。そ…

とほほ事例2 上半身にγ-BHC、下半身にオイラックス?

とはいえ、疥癬について情報が不足する中で、今まで使ったことのない、しかも毒性が強いという薬をはじめて使ったスタッフの気持ちがわからないでもない。 私も「六一〇ハップとオイラックスでは集団感染はなかなか制圧できない」とアドバイスされ、はじめて…

とほほ事例2 上半身にγ-BHC、下半身にオイラックス? その2

γ-BHCは疥癬治療薬の中でも比較的毒性が高く、使用に当たって注意が必要な薬剤である。とは言っても、前述の「上半身/下半身」分割塗りで中毒が防げるという科学的根拠(医学関係では「エビデンス」という言葉が好んで使われる)はない。 こんな方法をとるよ…

とほほ事例2 上半身にγ-BHC、下半身にオイラックス? その1

この事例は以前疥癬対策の混乱状況について調べようと、いろいろな施設の疥癬対策事例を集めていたころ、ある団体の事例検討会の記録で見つけたものである。そのため筆者は、当事者に直接話を伺ったわけではないが、あまりに「独創的」だったので報告させて…

トホホな疥癬対策 事例その1 makikuni自身のトホホ(2)

今から思えば、埃なんか見ていないで、患者の皮膚を見て疥癬トンネルがないか見るべきだったのだ。しかし、当時の私は疥癬トンネルを医学図譜でしか見たことがなかったし、長期にわたりオイラックスと六一〇ハップを使用していたためにかぶれてしまった入所…

トホホな疥癬対策 事例1 makikuni自身のトホホ(1)

実はこの事例に筆者が関わり始めたのは騒動の初期からではなく、疥癬騒動が起こってから約2ヶ月が経過してからだった。今から思えばその時点で、オイラックスと六一〇ハップ(前にも書いたが、私は今となっては六一〇ハップを治療薬とは認めていない)を長期…

トホホな疥癬対策 その1

長々と感染症対策についてかたい話ばっかりしてきたので、ちょっと息抜き(?)を・・・筆者が見聞きした、「う〜ん、気持ちはわかるよ、もっともらしいもんね〜。でも間違っている(or意味がないor効かない)んだよね〜」という、トホホな疥癬対策の事例を挙げ…

感染症対策におけるハウツーの限界 その2

昨日からのつづき。介護職が感染症について医療職に判断を委ね、指示を待とうとしがちなのには、私たち医療職が長い間他職種に対して取ってきたパターナリスティックな態度も関係しているのだろう。他には介護職が感染症をはじめとする医学的知識を学ぶ時間…

感染症対策におけるハウツーの限界 その1

ここ何日か(雑談で脱線した日を除いて)疥癬だけにとどまらない感染症の一般に関する基礎知識について解説している。前回は感染症予防の面から見た高齢者施設の特性について書く予定だが、その前に、makikuniが高齢者福祉に携わる方々に感染症の基礎知識を…

高齢者施設と感染症 その2

加齢と感染症 高齢者施設の入居者の特徴は(あたりまえだが)高齢であることだ。では、年を取ると人の感染症に対する抵抗力(免疫)はどう変化するのだろうか? 免疫というのは病原体から身を守るために人の体に備わっている防御機構である。ごく大まかに説…

感染症と高齢者施設 その1

今回と次回は「感染症の基礎」の第2弾として、感染症のリスクという面から高齢者施設を考えてみたい。読者の皆さんの大部分は高齢者施設でお仕事をされているのだと思うが*1病院と老人ホームでは共通する点が多い。たとえば他人の援助を必要とした人々が集…

感染症の基礎知識 その2

たとえ病原体が体内に侵入定着して、「感染が成立」しても、病気になるとは限らない。病原体が体内に侵入して定着・増殖しても症状が出ない不顕性(ふけんせい)感染という状態がある。発病しないのは発病するために必要な数まで病原体が増えられないからだ。…

感染症の基礎知識 その1

以前ある高齢者施設の管理者が「感染症管理のキホン中の基本」がわかっていなかったと書いたが、感染症の基本とはどんなことなのかについては説明を省いた。そこで今回から何回かに分けて、高齢者施設で働く皆さんに知っておいてほしい感染症の基礎知識の解…

ケア記録はリスク管理の基本の「き」

「老人ホームは生活の場であり、医療モデルは適合しない」とはいっても、前回述べたように実際には病院とあまり変わらないような重症者が入居している施設も多い。それにたとえ重症者がいなくても「自宅で生活を続けることが困難になった高齢者を集団でケア…

ケア記録と感染症管理

このブログの「疥癬患者が見つかったら」のエントリーhttp://d.hatena.ne.jp/makikuni/20060420/では、疥癬の集団発生が疑われたら、まず行うべきことは、入居者の皮膚チェックだと述べ、同時に過去三カ月以内の退所者までさかのぼって皮膚に異常があった者…

ケア記録と感染症管理

前回は筆者がとある高齢者福祉施設で見た「転倒による外傷予防のための雑魚寝部屋」を例に、医療関係者の目で見ると介護施設には「高齢者の集団生活」というリスクに対応できていない面があることを指摘した。筆者が今まで病院、特別養護老人ホーム、有料老…

高齢者が集団で暮らすことのリスク:公衆衛生の観点から

今回と次回は筆者が疥癬対策などを訪問して感じた、高齢者施設の問題点について書きたい。医療者の目から見て改善すべき点、とくに健康問題に関する危機管理の視点から現在の高齢者施設が抱えるネガティブな面を指摘する。 高齢者施設と病院の違い 私は医者…

職業感染 相談例から

労災とか、職業感染というと小難しくてとっつきにくいだろうと考え、以前私が受けた相談と、それに対する回答を例に出す。読者のみなさんの勤務する施設でも、遭遇する可能性が高く、普段から考えておかなくてはならない事態だと思うのだが、どうだろうか? …

職業感染としての疥癬

はじめに 前回まで疥癬の治療に使用する薬剤について解説したが、今回から趣を変えて、疥癬が介護や看護の現場に与える社会的なインパクトに関して述べたい。一回目は「労災」という視点から、疥癬について考えてみよう。 疥癬がケアの現場に与えるインパクト…

治療薬:まとめ

いままで4回にわたって疥癬の治療に使われている薬について説明した。解説した薬の中には、疥癬に対して効果が高く、塗る回数が少なくて済んだり、内服するだけで済むなど、患者さんにとっても、スタッフにとっても使い勝手のよい薬がある。それにもかかわら…

疥癬治療薬その4 安息香酸ベンジル

ここ何回か、疥癬の治療に使う薬剤の解説をしてきた。今回はいろいろな施設で使われている割には情報が少ない安息香酸ベンジルについて説明する。 安息香酸ベンジル(あんそくこうさんべんじる:benzyl benzonate) 安息香酸ベンジルはBB(びーびー、以下長…

疥癬治療薬その3 イベルメクチン

今回は疥癬の唯一の内服薬、イベルメクチンについて解説する。 イベルメクチン(ivermectin) イベルメクチンはマクロライドという抗生物質に近い薬だが、細菌を殺す作用はなく、線虫(フィラリアなど)やダニ・昆虫などの神経を麻痺させる作用がある。ヒトは…

第9回 疥癬治療薬その2 γ-BHCとペリメトリン

今回は日本以外の国で疥癬の第一選択薬*1として使われている薬ペリメトリンと、ペリメトリンの登場まで、長い間第一選択薬だったγ-BHCについて述べる。 γ-BHC(がんま・びーえっちしー、またの名をリンデン) γ-BHCはDDT*2の親戚のような化学物質(有機塩素…