疥癬治療薬その4 安息香酸ベンジル

 ここ何回か、疥癬の治療に使う薬剤の解説をしてきた。今回はいろいろな施設で使われている割には情報が少ない安息香酸ベンジルについて説明する。

安息香酸ベンジル(あんそくこうさんべんじる:benzyl benzonate)

 安息香酸ベンジルはBB(びーびー、以下長いのでBBと記す)とも呼ばれ、比較的多くの施設で使われている。BBが疥癬に対して効果があることは確かだが、どのように使用するのがよいのか、とか、どんな副作用があるのか、とか、子供や妊婦に使えるのか、などに関しては情報が少ない。
 またBBは、医師によって使い方に差が大きい薬である。どんな違いかというと、薄める濃度、どんな基剤(ワセリンや親水軟膏など)に混ぜるか、オイラックスに混ぜる方法を提唱している医師もいる)他の薬剤と混合するか、どのくらいの回数、どのくらいの間隔をあけて使用するか、など様々である。
 このような使用法の違いは、前回も触れたことだが日本で疥癬の治療法の標準化されておらず、また効果の高い疥癬治療薬が医療保険でカバーされないことが関係している。BBは日本薬局方薬事法に基づき厚生労働大臣が定めた医薬品の規格基準書)に記載されている薬剤だが、「疥癬」は健康保険の適応症ではない。では、なぜ医療保険の適応でないと薬の使い方に差が生じるのだろうか?。まず健康保険で薬に支払いを受けるには、一定の用法・用量を守らなくてはならない。保険が効く塗り薬の多くは、患者さんにすぐ使用出来るような形に調整されて市販されている。ところがBBは個々の医療機関で自家調剤といって、”手作り”される。そのときに、医師が参考にした資料によって薄める濃度(6〜30%)が変わったり、薄める基剤がエチルアルコールになったり、オイラックスに混ぜたりとバリエーションが生じるのだ。保険の効く薬剤に関しては医学雑誌などで情報が入手しやすく、またMRと呼ばれる製薬会社の営業部員が医師に自社の薬剤のPRをすると同時に、使用法や副作用についても情報提供している。このように保険が効く薬の情報は得やすい一方で、保険適応外の薬についての情報は入手しにくい。これはBBに限らず、前回解説したγ-BHCも保険適応外で自家調剤されているので、現場で使用法にバラツキがあるのは同様である(アメリカでは調剤済みのγ-BHCがKwellという商品名で市販されている)。
疥癬