トホホな疥癬対策 事例1 makikuni自身のトホホ(1)

 実はこの事例に筆者が関わり始めたのは騒動の初期からではなく、疥癬騒動が起こってから約2ヶ月が経過してからだった。今から思えばその時点で、オイラックス六一〇ハップ(前にも書いたが、私は今となっては六一〇ハップを治療薬とは認めていない)を長期に使用して、ほぼすべての患者が治癒していたのだと思う。当時私は保健所から福祉部へ異動したばかりで、役所の中でも福祉部門に医者がいるという認識はあまりされていなかった(まあ、存在感がなかったわけである)。そんな筆者に、施設側が相談してみようと思い立ったきっかけは「ショートステイを閉めたのはいいけれど、いつ再開したらいいのか?判断基準はなんだろう?」という問題にぶち当たったからである。
相談を受けた私は、さっそく施設を尋ねて患者を見、職員の話を聞いた。その施設ではフトン干し、六一〇ハップ浴、オイラックス塗布、衣類・リネン交換という、(今から思えば過剰かつ無意味な)フルコースを毎日行っていた。私は職員の不安と荷重労働にびっくりし、「疥癬というのはなんと大変な病気なのだろう」と思い、同時に「なんとかお役に立ちたい」と、律儀な使命感に燃えて手当たり次第に文献に当たってみた。しかし連載第一回に書いたとおり、資料に書いてあることがまちまちで、かえって混乱する始末だった。
 私は混乱しつつも、与えられたお題である「ショートステイ再開の判断基準」について、無い知恵を絞って考えた。「疥癬はヒゼンダニで起こるらしい、ヒゼンダニは落屑に混じっているらしい、だから患者寝ていたシーツの埃を掃除機で吸って、ヒゼンダニが検出されなければ感染性なしと考えてよいのではないか?」という無意味な三段論法を思いついた。
 保健所の害虫担当の職員と掃除機片手に施設を回り、集めた埃を大変な苦労をして鏡検した。幸い(というか数ヶ月も治療した後なのだから当たり前なのだが)見つかったのはハウスダストのダニばかりでヒゼンダニは検出されなかった。私は「ダニがいなかったのでショートステイの再開できると思います」と報告したが、今となっては穴があったら入りたいくらい恥ずかしい過去の経験である。