トホホな疥癬対策 事例その1 makikuni自身のトホホ(2)

 今から思えば、埃なんか見ていないで、患者の皮膚を見て疥癬トンネルがないか見るべきだったのだ。しかし、当時の私は疥癬トンネルを医学図譜でしか見たことがなかったし、長期にわたりオイラックス六一〇ハップを使用していたためにかぶれてしまった入所者もいたことが状況判断をますます困難にしていたのだと思う。
 断っておくが、「疥癬オタク」となった現在の私は、疥癬の集団感染が起こったからといってショートステイの受け入れを中止すべきだとは思っていない。ショートステイの受け入れを中止する理由は、疥癬集団発生時の職員の負担を軽くするためと、新規の入所者に感染を広げないためという2つの理由があるのだと思う。前者の「職員の荷重労働」は、以前にも述べたように本来は不必要な対策を行うことで起こるものだ。後者の「新規の感染を防ぐ」意味も、次に述べるようにあまりない。
 疥癬集団発生が起こった場合は、これからおこる新規の感染よりも、既に感染して潜伏期に入っている者がいることの方に注意を向けるべきだ。疥癬は約一ヶ月と比較的潜伏期の長い感染症である上、診断がつくまでに時間がかかる場合が多い。だから集団発生に気づいた時点ではすでに感染が拡がって潜伏期に入っている可能性がある。残念ながら潜伏期のうちに診断することは不可能なので、潜伏期を抜けて発症した患者を早期に診断して治療することが、集団感染のコントロールのために重要だ*1。さらに治療開始と同時にヒゼンダニの虫体は激減するから、新規の患者に感染させる可能性は急速に低下するから、これから起こる新規の感染はあまり心配しなくてもよい。
 疥癬集団発生で部屋の埃を調べるようなトホホな対策を取っていた私は、その後九段坂病院皮膚科の大滝先生らと出会って、「正しい疥癬対策」に開眼し、当時の私のような迷える医療福祉介護職に疥癬の知識の伝道者のような仕事をするようになるわけだが、いつまでも疥癬にはじめて関わったときのとまどいと不安を忘れずにいなくてはと思っている。

*1:集団発生時の対応のコツはhttp://d.hatena.ne.jp/makikuni/20060420/p1に書いた