とほほ事例2 上半身にγ-BHC、下半身にオイラックス?

 とはいえ、疥癬について情報が不足する中で、今まで使ったことのない、しかも毒性が強いという薬をはじめて使ったスタッフの気持ちがわからないでもない。

 私も「六一〇ハップオイラックスでは集団感染はなかなか制圧できない」とアドバイスされ、はじめてγ-BHCを使用した際には大変緊張したものだ。「毒性学の教科書に載っていた神経刺激性のけいれん症状が起こるのではないか」と、警戒し、副作用出現時にすぐ対応出来るよう抗けいれん剤を用意して、特別養護老人ホームに仕事を持ち込んで塗布後6時間施設内で待機したのを覚えている。幸い私はγ-BHCを使用して、今までに重篤な副反応に遭遇したことはない。一例だけ薬剤過敏と思われる紅斑をみた事例があるのみである。正しい使用法さえきちんと守れば、切れ味のいい使いやすい薬だと思う。

 しかし、γ-BHCは気軽に使用すべき薬ではないことにはかわりはない。γ-BHCは保険適応外の上、毒性の高い薬なので、本人(無理なら家族)に書面でインフォームドコンセントを取って(十分な説明が必要なのは、どんな薬剤でもそうだが)、用法・用量に注意して使用するべきだ。

 残念ながら、現在でもγ-BHCを「え??」と耳を疑うような不適切な用法で使用している施設があるようだ。たとえば本当は1%で十分なのにもっと高い濃度で使用したり、1週間おきに塗ればいいものを連日塗布したり、塗ってはいけないびらん面に塗ったり・・・・。そんな報告を聞くたびに海外では、γ- BHCに取って代わったという、安全性の高いペリメトリンが、早く日本でも認可されないものかと思う*1

*1:日本では内服薬イベルメクチンの方が先に普及しそうです。内服薬の利便性は認めますが、皮膚感染症の治療薬はいったん全身に分布してから皮膚に届いて効く内服薬より、患部のみに局所的に作用する外用薬が第一選択であるべきだと思います