ケア記録と感染症管理

 このブログの「疥癬患者が見つかったら」のエントリーhttp://d.hatena.ne.jp/makikuni/20060420/では、疥癬の集団発生が疑われたら、まず行うべきことは、入居者の皮膚チェックだと述べ、同時に過去三カ月以内の退所者までさかのぼって皮膚に異常があった者がいなかったか思い出すことも必要だと述べた。発端となった角化型疥癬患者の見当をつけて、対策を練り易くするためだ。日頃から入居者をよく観察して、きちんと記録をつけておくことができれば対策が立てやすくなる
 さらに言えば、入院患者や入居者の部屋移動と、その時期、同室者が誰だったか、そのフロアの担当職員が誰か、なども疥癬対策をたてるに当たって重要な情報である。入居者の部屋移動なんて、些細なことだと思っているかもしれない。しかし、疥癬をはじめとする感染症では「感染源に曝露した者を特定する」ために必要になることがある。
 一部の老人病院などでは患者が慢性期のため、医師のカルテにあまり記載がないこともある。しかし、そのような場合でも患者の状態を日常的に把握する看護記録は詳細につけられており、「前胸部に赤い丘疹出現、体を頻繁に掻いている。Dr指示で○×軟膏塗布」などの情報を追っていくことができる。
 しかし老人ホームでは、そんな「病院の常識」が通用しないところが多々あった。入居者の過去の身体状況や訴えについて、システマティックに記録されていないのだ。中には、「以前疥癬がはやって県の監査を受けたことがあり、上司から『皮膚症状についてはなるべく記録しないように』言われています」という施設もあった。このような施設は例外だとは思うが、入居者にID番号などを振って、経時的に追えるようになっていても、記録は介護保険の請求事務のためだけ、という施設が多いのではないだろうか?