ケア記録はリスク管理の基本の「き」

「老人ホームは生活の場であり、医療モデルは適合しない」とはいっても、前回述べたように実際には病院とあまり変わらないような重症者が入居している施設も多い。それにたとえ重症者がいなくても「自宅で生活を続けることが困難になった高齢者を集団でケアする」ということには困難が伴うもののはずだ。その証拠に、たかが疥癬疥癬で死ぬことはほとんどない、治療法もある。だからあえて声を大にしてもう一回言うぞ!たかが疥癬)で大騒ぎしている施設が全国にたくさんあるのがではないか!それなのに高齢者施設を管理する側は、リスク相応の用意ができていないのではないか?入居者の記録の管理はその一例である。きちんと記録を取ることはリスク管理の第一歩なのに・・。まあ、疥癬パニックは実際に病院でも起こっているし、当の私も初めて疥癬の集団発生に遭遇したときはパニクった口だし。医者がいりゃいいってものでもないのだが・・・それはさておき・・・

きちんとした記録を取ることへの動機づけが必要

 これは個々の施設の問題だけでなく、制度の問題でもある。転倒や感染症など、高齢者の集団生活につきまとうリスクに対応するには、それなりに資金や職員の教育・訓練などが必要だ。しかし、施設側の対応を促すような制度上のインセンティブは不十分だ。介護保険でも、施設が遵守すべき運営規準の中に「サービス提供の記録と保存」に関する規定や、感染症のまん延を防ぐ措置を講ずる努力規定が盛り込まれているが、その内容については詳細に決められているわけではない。きちんと記録を管理したら報酬が増えるわけでもない。各施設によって記録の中身はかなりばらつきがあるのが現実ではないだろうか。
 記録は、もちろん疥癬のためだけに付けるものではない。高齢者の生活を支えるケアの方針をあらゆる側面から見直すための基礎資料ともいえる重要な意味があるという認識で一人ひとりの記録を大切に付けてほしいと思う。制度もそういう現場をきちんと評価するしくみであってほしい。