感染症対策におけるハウツーの限界 その2

 昨日からのつづき。介護職が感染症について医療職に判断を委ね、指示を待とうとしがちなのには、私たち医療職が長い間他職種に対して取ってきたパターナリスティックな態度も関係しているのだろう。他には介護職が感染症をはじめとする医学的知識を学ぶ時間が圧倒的に不足していることが大きいだろう。たとえばヘルパー2級の養成課程は130時間で、そのうち感染症教育に当てられるのは多くて1〜2時間だという。その一方、看護師の養成課程は約3000時間で微生物学、公衆衛生学など、複数の科目で感染症教育が行われている。たかが小一時間、疥癬についての講義をしただけで、この圧倒的なギャップを埋められようなどと考えた私が傲慢だったのだと反省した。
 それでは介護現場で働く人々に対する感染症教育はどのようなものにしたらいいのだろうか?私はある程度の時間がかかっても、また遠回りなように思えても、介護職に感染症がなぜ起こるかという基礎知識について知ってもらうべきだと考えている。
 基礎知識中心の教育と、ハウツー中心の教育は以前http://d.hatena.ne.jp/makikuni/20060424/p1で話題に出した、根治療法と対症療法の関係に似ていると思う。ハウツー中心の感染予防教育は即効性があるが、効果が持続しない。たとえば手洗いなどの感染予防策が必要な理由を理解していないと、動機づけが不十分で継続できなくなるおそれがある。また例外的な事態に直面した場合に、応用力がないので判断ができない。ハウツー的な感染予防策に終始して、疲労困憊してしまった現場は数多くある。基礎中心の教育が成功すれば根治療法のように継続的な効果を発揮し、専門家に頼らなくても基本的な判断はできるようになるはずだ。
 そんなわけで私は介護職の方々向けの感染症の系統的な教育プログラムを作れないかと妄想しているのだが、現状では私を含めた医療職は同僚である介護職の仕事の内容や、受けてきた教育内容を知らなすぎるので、なんとかしないとなぁ、と思いつつ、今週も介護現場に出かけていくのである。