高齢者施設と感染症 その2

加齢と感染症

高齢者施設の入居者の特徴は(あたりまえだが)高齢であることだ。では、年を取ると人の感染症に対する抵抗力(免疫)はどう変化するのだろうか?
 免疫というのは病原体から身を守るために人の体に備わっている防御機構である。ごく大まかに説明すると、体内に侵入した病原体を食べる細胞(細胞免疫)や、抗体といって病原体の働きを抑える特殊なタンパク質を作る仕組み(液性免疫)が私たちの体を守っている。免疫システムも高齢期に入ると徐々に衰えてくるが、加齢によって免疫システムが衰えたことイコール、感染症にかかりやすくなるわけではない。たとえば長期に伏せっていた高齢者が肺炎でなくなることが多いのは、免疫の衰えだけでなく、気管に入った異物を咳で排出する力が衰えていたり、十分な量食べられないために体力が低下していたりすることなど、複合的な要因が関わっている。
 本シリーズで解説してきた疥癬の場合を考えると、疥癬は健康な青壮年層もかかる病気で、古くから性感染症として流行を繰り返してきた。最近ではこのブログの06/5/04の項http://d.hatena.ne.jp/makikuni/20060504/p1でも触れたように施設の職員の職業感染としての一面も見られるようになった。決して高齢者や施設入所者だけの病気ではないし、日和見感染でもないのである。
 しかし、筆者が複数の施設で職員も巻き込んだ疥癬の集団発生を観察した経験では、角化型疥癬患者と接触したあと、疥癬を発症する率は入所者で高く、職員で低かった。また治療に対する反応も、職員の方がよかった。若年の入所者や比較的高齢の職員もいるし、入所者と職員では年齢以外に基礎疾患・ADLレベルも大きく異なる。しかし入所者の中でも高齢者は疥癬にかかりやすく、治りにくい傾向があることは確かなようだ。
 加齢と感染症について、まとめると高齢だからといってどんな感染症にも片っ端から罹ってしまうわけではない。しかし、高齢者は青壮年と比べると、感染症にかかりやすかったり、治りにくかったりするので注意が必要である。

ひとくちに「病院」といってもいろいろある

 今回は急性期病院と高齢者施設を対比して、感染症について考えてみた。しかし実は病院にも大学病院やら、精神病院、療養型病床群とさまざまであり、高齢者施設も限りなく病院に近い重症者を受け入れている施設から、退職直後の自立高齢者がゴルフを楽しみつつ悠々自適に暮らしている施設までいろいろだ。また同じ種類の施設、たとえば介護老人保健施設でも、それぞれの施設で設備や人員配置が全く同じというわけではないから、感染症対策の細かい部分は違うはずだ。

施設ごとにカスタマイズされた感染症対策が必要

 たとえば水道栓の配置が違えば、おむつ交換にさいして職員の動線が異なるから、手洗いの方法も変わってくる。「マニュアルがあれば感染症対策は十分」というわけにいかないのが、難しいところだ。手洗いが実行できない場合、職員が感染症対策の必要性を理解していない可能性もあるが、水道栓の配置が悪くてマニュアル通りの実行が不可能である可能性もある。感染症対策は施設の設備や人員配置の面からも配慮が必要であり、現場職員だけでなく、管理者も理解する必要がある。