第4回 疥癬患者が見つかったら

 今回は勤務先の施設で疥癬患者がみつかったら、どのような対策を取ればよいか?について書いてみたい。このお題は現在makikuniが三年計画で実施中の研究テーマそのものなので、まだ十分まとまっているわけではないし、ここに書ききれるような分量・内容ではないとは思う。いままでmakikuniが疥癬の集団感染が起こっている施設に訪問したり、電話やメールで相談を受けたりした経験に基づいて、とりあえずのお勧めの対策について書いてみる。

まずは入居者全員の皮膚チェック

 もしあなたの勤務する施設で疥癬の患者が見つかったら、どうするか?疥癬の患者が見つかったら、最優先で行うべきことは、他にも患者がいないかチェックすることである。真っ先に疥癬と診断された患者を隔離する、という施設が多いかもしれないが、前回も説明したとおり、角化型疥癬でなければ隔離の必要はない。それに実は診断のついた疥癬患者からの感染のおそれは低いのだ。診断がついたからには治療が始まったはずで、治療は殺ダニ効果のある薬を使用するはずだから、「診断がついた=その患者さんの体表のダニは激減した」と考えてよい。
 では「他にも患者がいないかチェックする」ために具体的になにをすればよいのか?まずは皮膚チェックする対象者をリストアップし、優先順位をつけよう。皮膚チェックを行う対象者だが、疥癬だと診断されたり、疑われたりした患者の同室者など、近しい人から始めるとよい。しかし、最初からあまり対象を絞りすぎないようにしよう。なぜならその患者も未発見の角化型疥癬の患者から感染したのかも知れないからだ。角化型疥癬からの感染の場合、短時間の接触でも感染する場合があるから、案外離れた部屋にも患者がいることがある。まずはワンフロア分の入所者の皮膚の状況を把握して、疥癬感染者の拡がりを把握するようにしよう。職員にも、最近皮膚に変化がないか、訊いてみよう。前回も述べたとおり、角化型疥癬の患者が発生してから、集団発生ではないかと気がつくまでに、タイムラグがあるから、ここ3ヶ月くらいに退所した入居者(死亡退所や入院したものも含む)に角化型疥癬を疑わせるものがいなかったか、スタッフのみんなに思い出してもらおう。
 対象者のリストを作ったら、全身の皮膚をくまなく見て、ボツボツや掻きこわし、小さな水疱、怪しい垢のような角化物の付着がないか、観察し、どこにどんな皮疹があったか記録していく。疥癬だと確定診断することは医師でなくてはできないが、皮膚を観察することは医師でなくてもできる。
 多くの高齢者施設では皮膚科医や疥癬に詳しい医師に往診に来てもらうチャンスは少ないだろうし、もし来てもらえても一回に診察できる患者数は限られているはずだ。介護職や看護職の皆さんで皮膚チェックを行えば、往診の際に診てもらう入所者を絞り込んだり、優先順位付けしたりできるだろう。専門家に相談するときにも、より的確なアドバイスがもらえる可能性が高まる。また、集団感染が起こっているのかどうか、見当をつけることができるかもしれない*1

皮膚チェックのポイント

 限られた時間内で多くの入居者の皮膚を見るのは結構大変なことであるから、makikuniが皮膚チェックをする際に重視しているポイントを挙げる。対象者が裸になる入浴介助のときや、衣類交換のときなどに行うといいだろう。以下に挙げたような皮膚所見があったら、皮膚科医に診察してもらうことをお勧めする。

疥癬患者発見のための皮膚チェックのポイント

  • 手のひら、手首、足の裏の水疱や赤いボツボツ

 疥癬特有の皮疹で、診断の決め手にもなる疥癬トンネル(写真はこちら:makikuniが運営している別サイトに飛びます)は、手のひらや手首、足の裏にできることが多いので、時間が限られているときは手と足の裏から見て、皮膚になにかできていたら要注意とする。疥癬トンネルにはメスのヒゼンダニが潜んでいて卵を産んでいる。トンネルという名のとおり線状になっている場合と、水疱だけの場合がある。水疱は直径1mm以下で小さい。赤みあることも、ないこともある。

  • お臍の周りやわきの下に赤いポツポツ

 これらの場所の赤いボツボツは疥癬でも、他の皮膚病でもよく見られるのでこれだけを見て疥癬と決めつけないように!*2疥癬トンネルにプラスして、手のひらや足の裏に1mm以下の小さな水疱や線状疹がある場合には疥癬の疑いが高まる*3

  • 垢のような角化物の付着に注意する。

 痒がっていなくても、分厚い垢のような角化物があったら要注意である。角化型疥癬かもしれない。医師と相談して、この垢だけでも拾って顕微鏡で見てもらうとよいだろう(垢を拾うときには手袋をするなど注意が必要)。垢の中にダニが見つかるようでなければとりあえず角化型疥癬は否定される。疥癬でなくても、乾癬(角化が亢進する皮膚病、感染する病気ではありません)など角質が厚くなる病気があることも知っておこう。

 上記の特徴がすべて備わっていても疥癬とは限らず、ほかの皮膚病かもしれないので、必ず皮膚科医に診察してもらうことが重要である。
疥癬

*1:怪しげな皮膚症状を呈した入所者が次々に見つかれば集団発生を疑わなくてはならない

*2:makikuniは「疥癬の集団感染です」と相談されて、施設に訪問して調査することがあるんですが、疥癬を警戒するあまり、発疹のある入所者・入院患者さんすべて疥癬患者として過剰な対策を行って、疲れ果ててしまっている施設の方も多いです。なんとか力になれないかな〜と思ってこんなサイト始めました

*3:施設に調査にうかがった際に「これ疥癬トンネルですよね」と言われて、診てみると全然違うこともあります。疥癬トンネルって小さくてビミョーな皮疹なので、写真やその説明だけではなかなか見つけるコツがお伝えしにくいのが悩ましいです。実際に患者さんを診てもらうのが一番なんです。皮膚科のアトラス(医学写真集)とか、ネットのサイトの写真を見て、ノイローゼにならないでね