角化型疥癬について理解しよう

 今回は前回に引き続き角化型(ノルウェー疥癬について解説する。

集団感染の陰に角化型疥癬あり

 前回、普通疥癬というのは一晩一緒に寝るほど親密にしないと感染(うつ)らないと書いた。そんなに感染(うつ)りにくい疥癬がどうして多くの老人ホームで集団発生しているのだろうか?その理由(わけ)は角化型疥癬にある。角化型疥癬になると、介護者や同室者に感染し、見舞い客も感染してしまうことがある。大滝倫子先生は「集団発生の陰に、角化型疥癬あり」と注意を喚起している。

集団感染発覚時に角化型患者が見つからない場合もある

 しかし集団発生が起こった施設で、一斉に皮膚科検診を行っても、角化型疥癬患者が見つからないことも多い。なぜだろう?疥癬には約1ヶ月〜数ヶ月の潜伏期があるので、角化型疥癬の患者が発生してから、周囲の患者・職員に感染が拡大し、職員が集団発生ではないかと気がつくまでに、タイムラグがあるからだ。角化型疥癬患者はえてして全身状態が悪いことが多いので、転院したり、亡くなったりして、集団感染が発覚する前に施設からいなくなってしまうことがある。また、角化型疥癬ではかゆみを訴えない症例もあるため、疥癬だと疑われないまま経過することもある。
 約10年前に筆者が初めて関わった特養の事例では、集団感染が認知され「疥癬パニック」が起こる一ヶ月くらい前に死亡退所された方が集団感染の発端になったと考えられたがあくまで推測の域を出ない。私が関わった時期にはその方は亡くなられており、落屑などの検体も残っていなかった。職員から部屋割りや発症時期など疥癬患者の発生状況を詳しく訊いた結果、消去法でたどり着いた結論である*1

普通の疥癬で隔離が不要な理由

 上記のような理由で疥癬患者が最初に見つかり「疥癬パニック」が始まった時点で、すでに角化型疥癬患者の発生からは数ヶ月経過している可能性がある。そうだとしたら、最初に見つかった患者(=最初に疥癬にかかった患者とは限らないことに注意)のほかにも疥癬患者がいる可能性があるし、今皮膚症状がない者もすでに感染して潜伏期に入っているかもしれない。普通の疥癬で隔離の必要がない理由は、ひとつには疥癬の感染力があまり強くないこと、そしてもうひとつ、隔離を開始した時点ですでに周囲に感染が広がっていて隔離の意味がない場合があるからだ。

角化型疥癬では隔離と患者のリネンや療養環境の殺虫が必要

 しかし見つかった患者が角化型疥癬の場合は、対応が大きく異なる。前回も説明したとおり、角化型疥癬はダニの数が桁違いに多く、感染力が強いからだ。角化型疥癬患者の隔離をすることで、新たな感染が起こることを防止できる。角化型疥癬患者が撒き散らすフケのような角質(落屑(らくせつ))のなかには、ヒゼンダニが潜んでいて感染性があるので、取り扱いに注意が必要である。リネン類はくれぐれも丸めて素手で抱きかかえたりせず、落屑が飛び散らないように袋に入れて持ち運ぶようにしよう。患者の居室には、一回だけ殺虫剤(ゴキブリ用エアロゾルでよい)を撒布しよう。殺虫剤は一度噴霧すれば効果が持続するので何度も撒く必要はない。リネン類は50度以上の湯を通したり、袋にいれて殺虫剤を撒いたりすれば、ダニが死ぬので、あとは普通に洗濯してかまわない。ヒゼンダニは人から離れると長く生きられないので、患者が使用していたもの(ベッド、居室、リネンなど何でも)は単に2週間放置するだけでも全滅する。

角化型疥癬でも隔離は短期間

 隔離を行う場合に注意すべきことは、長々と隔離を行わないことである。たとえ角化型疥癬であっても、十分効果の高い疥癬治療薬*2で治療が始まれば、ヒゼンダニは急速に死滅し、それとともに感染力も低下する。隔離期間は個々の患者の状態や、治療に用いる薬剤によって異なるが、長くて2週間ほどである。リネン類の殺虫も同時期にやめてよいだろう。あなたが思っていたよりもずっと短いのではないだろうか?
疥癬

*1:入所時から頭部にガビガビに垢が付いており、皮疹が多発していたという。頭の垢はこするとぼろぼろ落ちたが、前に入院していた病院からは乾癬と申し送られていたという。乾癬は角化型疥癬に似た所見を呈することがあるが、感染する病気ではない。

*2:殺ダニ剤、治療については今後アップする予定