なぜ普通の疥癬と角化型疥癬を区別しなくてはならないか?

 角化型疥癬と普通の疥癬では、一人の患者さんに寄生しているダニの数が違うから、感染力も大きく異なる*1。普通の疥癬は、一晩一緒に寝るくらい親密な接触をしないとうつらない*2が、角化型疥癬では老人ホームの同室者や介護者に簡単に感染してしまう。だから対策が大きく異なるのである。たとえば普通の疥癬では隔離は不要だが、角化型では治療開始後1週間くらいは隔離を行わなくてはならない。患者さんの衣類やリネン類の殺虫も角化型疥癬の場合だけに必要な処置である。前回、私が初めて疥癬対策に取り組み始めた当時に「文献によって治療法や対策が違っていて困った」と書いたが、このような食い違いが起こるのは角化型疥癬の対策と普通の疥癬の対策が混同されているのも一つの原因だろう。

角化型疥癬になるのはどんな患者さんか?

 それでは角化型疥癬はどんな条件で、どんな患者さんがかかるのだろうか?表(06/4/17参照)にも書いたとおり、免疫力の落ちた人が疥癬にかかると角化型疥癬になることがある。角化型疥癬の患者さんから感染したら、角化型になるわけではないので安心して欲しい。また高齢だから、介護を要する状態だからといって、角化型疥癬になってしまうわけではない。角化型疥癬にかかる可能性があるのは、がんの末期や、老衰で死にそうな人、そして(これ重要)副腎皮質ステロイドを長期に使っている人たちである。だからといってこれを読んで「ステロイドやめなくちゃ」とは考えないでほしい。巷では一部に「ステロイド=副作用」と結びつける人もいるようだが、使用法を間違えなければいろいろな症状によく効く良い薬である。膠原病などステロイドを長期に使用し続けることでQOLが改善している人もたくさんいるし、一生のみ続けなくてはならない人もいる。長期に使用しているステロイドをいきなりやめるとひどい副作用が出て命にかかわることもあり、自己判断は危険である。
 明日も引き続き角化型疥癬の話です。施設での集団発生と角化型疥癬について書きます。
疥癬

*1:makikuniは今までに延べ数で数百人の疥癬患者さんの診察をしたと思いますが、疥癬に罹ったことはまだありません。疥癬の診断の決め手になる疥癬トンネルは結構小さく、視診と触診を併用して発見できる場合があるので角化型疥癬の方を診るとき以外は素手で診察しています。標準的予防策として、もちろんお一人診るごとに手洗いしています。

*2:Mellanbyはボランティアの被験者に疥癬患者さんが前夜寝たベッドに寝てもらい、感染が成立した確率は1/156だったと報告している