第二回 角化型疥癬を理解しよう その1

 疥癬対策に誤解が横行する理由のひとつは、感染力の強い角化型(ノルウェー疥癬とそれ以外の普通の疥癬(普通の疥癬という医学用語はないが、便宜上こう呼ぶ)があることが良く理解されていないことだ。角化型疥癬と普通の疥癬では対策が大きく異なるので、両病態の違いを理解することが重要である。違いをまとめた表を示すので、以下は参照しながら読んでほしい。

普通の疥癬と角化型疥癬の違い「疥癬はこわくない」(医学書院:2002年・p17)より一部改変引用1)


普通の疥癬 角化型疥癬
寄生数 1000以下 100万以上
宿主の免疫力 強い 弱い
感染力 弱い 強い
主な症状 丘疹・結節 角質増殖
かゆみ 強い 不定
場所 頭部を除く全身 全身

過角化が特徴

 角化型疥癬は、疥癬が重症化して患者さんに取り付いているヒゼンダニが桁違いに増えた病態のことで、はじめて論文で報告したのがノルウェー人だったことからノルウェー疥癬とも呼ばれる。角化型疥癬の特徴は、皮膚に汚い牡蠣(かき)の殻のような厚い垢のような角質がつくことで、過角化型疥癬crusted scabiesとも呼ばれる。こちらの方が適切な医学的名称だが、日本語では舌をかみそうなせいか、ノルウェー疥癬と呼ばれることも多い。

ダニの種類は同じ、違いは寄生数

 「ノルウェー疥癬」という種類のダニがいるわけではなく、両者の違いは寄生しているダニの数にある。角化型疥癬の患者さんに寄生しているダニも普通の疥癬と同じヒゼンダニである。ただ角化型疥癬の場合、寄生している数が圧倒的に多いのである。
 表中には普通の疥癬はダニの寄生数が「1000以下」とあるが、ダニが千匹というのは普通の疥癬としてはかなり多いほうだと思われる。疥癬トンネルを作って卵を産んでいるメス(診断および治療上重要)に限って言えば、たいていの患者さんで10匹以下である*1
 疥癬の確定診断をつけるには、患者さんの皮膚からヒゼンダニを見つけなければならないが、普通の疥癬では探すのに苦労くらい少ないのだ。とくに「かゆいから」、「疥癬が心配だから」とオイラックスを塗っている場合は大変見つけにくい。一方角化型疥癬だったら、患者さんの分厚い角質(こするとフケのようにぼろぼろ落ちる)を顕微鏡でのぞくだけですぐダニが見つかるはずである。
疥癬

*1:Mellanbyがボランティアに疥癬に感染してもらった研究によると、疥癬患者の半数はメスヒゼンダニが5匹以下しか寄生していないという。全身くまなく探して、である。Mellanbyの研究については、今後何度も引用する予定