大村智先生は疥癬対策の恩人でもあります

 疥癬の治療薬、ストロメクトール(一般名イベルメクチン)の発見者、大村智先生がノーベル医学生理学賞を受賞されました。NHKのニュースではオンコセルカ症をはじめとするフィラリア症の治療薬として紹介されていましたが、日本の医療者では疥癬の治療薬・ストロメクトールとしての方がなじみ深いです。ほんとにお世話になっています(博士論文もイベルメクチンを使った疥癬の集団感染対策で書かせていただきました)。
 去年発売された、スミスリンローションも日本発の治療薬です。これからも患者さんの悩みを解決する心強い武器で有り続けて欲しいです。

ガイドラインにパブリックコメントも募るみたいです

 ガイドラインの原稿、今は各担当者が悶絶しつつ改訂してますが、日本皮膚科学会本部に提出され、ホームページ上でパブリックコメントを募集して、検討もするようです。パブコメ募集始まったらこことか医者向けMLで告知します。作成委員会長の石井先生は「2015年春の日本皮膚科学会総会で世に出す!」と宣言されてるんで、足を引っ張らないように頑張ります。

疥癬診療ガイドライン改訂作業中です

 不肖makikuniも参加して、新しい疥癬診療ガイドライン(第三版)の改訂作業をしてます。今年8月下旬に発売になったスミスリンローションの使い方はもちろん、各治療薬の推奨レベルも記載し、エビデンスレベルも示した(とはいっても疥癬ってランダム化研究がとっても少ないんですよね(^^;;)、前のバージョンより大幅にボリュームアップした読み応えのあるモノになってます。
 makikuniは感染予防策のところを分担して書いています。通常疥癬と角化型疥癬の対策を対比した表ですが、ああいった表は一人歩きしてしまうことが身にしみてわかったので、表だけコピーされてもいいように注意書きいっぱいのくどい感じに仕上がってます。くどい記述をするわけは「なぜその対策を取ることを勧めるか」の基本的考え方を伝えようという意図なのです。

疥癬診療ガイドラインの改訂が進行中です

 この新薬の発売に合わせて、日本皮膚科学会では疥癬診療ガイドライン第三版を作成中で、私も集団感染対策の部分を書いています。現在かなり原稿はできあがっており、9月下旬に最終の作成委員会が開かれ、皮膚科学会のチェックを受けて、パブリックコメントを受け付けた後、来年には発行予定だそうです。

疥癬の新しい外用薬スミスリンローション5%が発売されました

 久々の更新です。2014年8月22日に、クラシエから疥癬の新しい外用薬スミスリンローション5%が発売されました。http://www.kampoyubi.jp/sml/
 ストロメクトールだと体重15kg以下の子供に使えず、全身状態が悪い患者では内服では局所に届かない可能性があり、疥癬に取り組んできた医療者にとって念願の発売です。アタマジラミ等で薬局で市販されているでスミスリンパウダー・シャンプーはフェノトリン濃度が0.4%で、濃度が大きく異なります。
 諸外国ではフェノトリンと同じピレスロイドであるペリメトリン外用剤が第一選択の国が多いのですが、フェノトリンが疥癬の治療薬として認可されるのは実は日本が世界初です。そのため有効性や副作用は発売後に確かめていかなくてはならない面があります。(ペリメトリンの外用剤はホルムアルデヒドが含有されているため、日本での発売が難しいため、スミスリンが開発された経緯があるそうです)。

「疥癬Q&A」(児童関係施設むけバージョン)

 しばらくしたら、PDF版にして別サイトにアップしますが、とりあえず。以前に集団感染が起こった保育園で配布したものです。
Q1 疥癬ってどんな病気ですか?
A  かゆみの強い発疹ができる皮膚病です。ヒゼンダニというダニの一種が皮膚に寄生することで起こります。ヒトからヒトにうつる感染症ですが、感染力は弱く、一緒に遊んだくらいではうつりません。うつる可能性があるとしたら、一緒に寝たり、だっこしたり、手をつないだりするといった、直接的な接触が比較的長時間あった場合のみです。

Q2 疥癬の原因になるヒゼンダニってどんな生き物なんですか?
A  体長0.4mm以下でほぼ半透明なので、肉眼ではまず見ることはできません。ヒゼンダニは吸血はしません。ダニが皮膚の浅いところ(角質層)に寄生し、アレルギー反応を起こすことによって皮膚症状が起きます。
ヒゼンダニはヒトの体の表面で生まれ、おとなになって、子孫をつくり、死んでいく寄生虫です。ヒトの体表の環境(37℃・湿度ほぼ100%)に適応しているので、低温や乾燥に弱く、ヒトの体を離れるとすぐ弱ってしまいます。直接的接触をしないとうつらないのはこのためです。環境への殺虫剤散布や、衣類の消毒は必要ありません。またヒゼンダニは、とりつく相手のえり好みが激しく、ヒトのヒゼンダニはヒトの皮膚にしか住みつきません。ペットなど動物に対する対策も不要です。

Q3 うつってしまったんじゃないかと心配です。どうしたらよいですか?
A  Q1の答えで述べたように感染力は弱いので、疥癬にかかったお子さんと接触したとしてもうつる可能性は高くありませんが、強いかゆみのある発疹が現れたら皮膚科を受診し、診断を受けるようにしてください。その際「通っている保育園に疥癬にかかった子供がいる」と伝えるようにしてください。疥癬でできる発疹は、他の皮膚病の発疹と見分けがつきにくく、診断が難しいことがあり、疥癬に感染する機会があったことを伝えることが、医師の診断の助けになる場合があるからです。

Q4 疥癬には潜伏期があるってほんとうですか?
A  本当です。疥癬の患者さんと接触して感染してから、約1ヶ月位、無症状の潜伏期があります(赤ちゃんや子どもの場合はもう少し早く、2〜3週間で症状が出ることもあるようです)。潜伏期にはアレルギー反応の準備(感作(かんさ))と、アレルギーの原因(アレルゲン)になるダニが増殖している期間です。潜伏期間にはダニがいても少数なので、感染力はないと考えられています。症状が出てからすみやかに診断・治療すれば周囲に感染を広げる心配はありません。
 疥癬にかかった方の同居のご家族など、感染の可能性がかなり高い場合には、無症状でも予防的に治療することがあるようですが、主治医の判断にお任せしてください。

Q5 疥癬と診断されたら保育園はお休みしなくてはならないのですか?
A  園児同士には、大人同士ではみられないような親密な直接接触がおこりうるので、主治医に治癒したと判断いただくまで、お休みいただくようお願いいたします。

Q6 インターネットで検索したら「疥癬は隔離が必要」とか「衣類は熱湯に浸けろ」と書いてありました。不安なのですが・・・
A  病院等で疥癬の集団感染がおこることがあり、その場合は角化型疥癬という重症の疥癬患者さんの皮膚に多数のヒゼンダニが寄生し、短時間の接触でも感染する可能性があります。角化型疥癬の患者さんは隔離する必要があり、病室や衣類に殺虫剤を使用することがあります。つまり普通の疥癬とは全く違った対策が必要なのです。しかしネットなどでは普通の疥癬と角化型疥癬の対策が混同されて記載されていることが多いのです。
角化型疥癬は免疫不全のような特殊な条件のある患者さんにだけ起こるので、保育園では角化型疥癬については心配する必要はありません。

Q6 掃除や洗濯はどうしたらよいのでしょうか?
A  ヒトから離れたダニは短時間で感染力を失います。ふとんや衣類、住環境を介して感染が拡大するリスクは上記の角化型疥癬を除いてはほとんどありません。布団乾燥や掃除、洗たくは普段通りでかまいません。疥癬はヒトとヒトの直接的な接触で広がる感染症なので、患者さんを早期に診断して早期に治療することが最優先の対策なのです。

Q7 疥癬の皮膚症状などについて参考になるサイトなどありましたら教えてください
A  日本皮膚科学会公式webサイトに一般の方用に皮膚病を解説した「皮膚科Q&A」というコーナーがあります。こちらで皮膚の症状などカラー写真付きで見ることができます。

文責 牧上久仁子(医師・日本皮膚科学会疥癬診療ガイドライン作成委員)

疥癬感染予防策の基本は保育園でも早期診断と治療

 疥癬が人と人の密な接触でうつること、治療することで感染性が低下することは、高齢者施設でも、病院でも、保育園でも一緒です。隔離とか、掃除、洗濯にこだわるより、あれ?と思ったら「疥癬じゃないかと思うんですが?」と皮膚科で診察してもらいましょう。