本当に宿主特異性があるのか?考察してみた

さて、makikuniにとってヒゼンダニの宿主特異性は、今回獣医さんからご質問して頂くまで、自明のことってゆうか、疑問に思ったことすらありませんでした。なんせ霊長類ヒト科の疥癬しか診たことないんで・・・・そんなわけで寄生虫学の教科書に載ってる宿主特異性は真実か?、畏れ多くも考察してみました。以下、専門用語てんこ盛りになります。

その一:分子遺伝学的お答え 宿主特異性はありそう

オーストラリア北部のアボリジニのコミュニティでは、疥癬の流行が続いていて、Waltonという学者がリーダーとなり、疥癬の遺伝子の研究をしています。彼らが、アボリジニのコミュニティにいたイヌと、オーストラリアのヒトと、北米のヒトの3グループに寄生していたヒゼンダニの遺伝子を調べました。その結果、同じオーストラリアのアボリジニコミュニティで採取されたイヌとヒトのヒゼンダニの間の遺伝学的相違は、オーストラリアと北米大陸のヒトのヒゼンダニ間のそれより大きかったと報告しています。*1

その二:ヒト疥癬に関する全国アンケートの回答:イヌからの感染報告は皆無だった

makikuniは2005年に全国の約1800か所の病院を対象にしたアンケートを実施し、疥癬の発生状況およびその対策を調査しましたが、(結果はネット上で公開しております。http://www7a.biglobe.ne.jp/~scabies/)その回答の中には「イヌヒゼンダニ」という記述はひとことも出てきませんでした。また2001年に全国老人保健施設協会さんが全国4000か所以上の老人保健施設・特養を対象にしたアンケートの回答の自由記述欄も目を通しましたが、やはりイヌヒゼンダニに関する記述はなかったです。
 これらの調査対象は施設が対象なので、地域で暮らしている人たちについてはわかりませんが、現在日本で疥癬にかかっている人たちの多くは入院患者さん・施設入所者さんが中心なので、それなりに参考になると思います。

その三:makikuniの個人的経験

makikuniは1996年に保健所医師として最初の集団感染事例に関わってから、今まで数百例の疥癬患者さんを診てきましたが、その中にイヌヒゼンダニによる症例は一例も経験しておりません。

その四:もし宿主特異性が強くなかったとしたら

ヒトヒゼンダニSarcoptes scabiei var homnisとイヌにつくイヌヒゼンダニSarcoptes scabiei var canisは学名通り、生物学的にはほぼ同じ「亜種」なのですが、ヒトヒゼンダニの実験動物による飼育は成功していません。もし宿主特異性があまり強くなくて、実験動物でヒトヒゼンダニが育てられていたら、消毒用アルコールがヒゼンダニに有効かどうか?とか、いまだに専門家の間で意見が割れていなかったと思います。

makikuni的結論

宿主特異性は確かにある、よって動物の疥癬はヒトにはあまり悪さしない、がmakikuni的な結論になります。

*1:Walton SF et al, Genetically distinct dog-derived and human-derived Sarcoptes scabiei in scabies-endemic communities in northern Australia.